第5回 UDNJ事務局 武者 圭 氏

Last updated 2009-06-04

UDNJ

Universal Design Network Japan.

top.jpg

現場からの便り

第5回 UDNJ事務局 武者 圭 氏

musha.jpg「就任のあいさつ」

略歴と障害

 身体障害者手帳では、1級の視覚障害者と認定されていますが、去年の春から内部障害との重複障害者に事実上なっています。病名は視覚障害が先天性網膜色素変成症、内部障害が軽度の慢性呼吸不全です。その上に、骨が生育不全や異形成のために身長が低いなどもあり、原因不明の全身病と言われています。

 視力については、生まれつき両眼とも強度の弱視でした。その後、徐々に視力が落ち、現在は両眼とも明暗が分かる程度です。普通文字をなんとか読み書きできたので、小学校は弱視学級の併設された公立学校へ通いました。しかし、小さな文字が見えにくくなったことなどで、中学校からは筑波大学付属盲学校へ通うようになりました。点字だけで読み書きをするようになったのは高校生になってからです。

 盲学校の高等部、専攻科音楽科を経て、国立音楽大学の音楽学科に入学しました。自分が視覚障害者で音を大きな手がかりに生活しているという興味もあって、大学ではサウンドスケープを専攻しました。サウンドスケープとは、身の周りの多様な音を調査・研究し、さらに音環境をデザインして整理整頓しようとする、比較的新しい学問分野です。そして、同大学の大学院を修了しました。

パソコンとの出会い

 パソコンを使い始めたのは、大学に入ってからです。音楽大学で音楽学を専攻したのですが、入学直後から大量の文章を読み書きする必要に迫られました。外国語も含めて文献を読んだり、辞典類を調べたりするのは、同級生やボランティアに援助をお願いしました。ただ、ほとんどの場合は時間をかけられないので、点訳よりは音読で対処していました。

 文章を読む方は援助をお願いできても、数多くのレポート作成まで援助に頼り切ることはできません。同じテーマを取りあげている同級生なら資料調査に快く協力してくれるかもしれませんが、それをレポートや論文にまとめるのは個人ごとの作業になります。文章を独力で書く手段として、パソコンを1から独学で勉強しました。

 最初は「AOK晴盲両用ワープロ」という、NEC PC9801パソコンのBASIC上で動作するワープロソフトを使いました。1987年当時はパソコンもこの音声合成装置付きソフトウェアも高価だったのですが、独力で文章を書いて印刷する重要な役割を果たしてくれました。翌年には「レコンポーザ98」というBASIC上で動作する市販のMIDIシーケンスソフトを購入し、限界はありましたが五線譜を出力できるようにもなりました。

 間もなく、パソコンのOSがBASICからMS-DOS主流となり、使用するソフトウェアも徐々にMS-DOS上で動作するものに切り替えていきました。前述のソフトウェアを例にすれば、レコンポーザはMS-DOS用にバージョンアップし、AOKワープロの代わりに市販のワープロソフトを使うようになりました。さらに現在では、いわゆるDOS/V機のWindows環境に完全に移行しています。


興味と仕事

 大学院修了後は、2年間ほど体調を崩して寝たり起きたりの生活が続きました。しかし、1997年9月、インターネットで偶然にプロップ・ステーションの翻訳者養成講座の募集を読み、予備試験を受けて講座を受講しました。1年間ほどの受講の後、プロップ・ステーションの関わったプロジェクトにいくつか参加しました。

 その中で最も大きかったのは、プロップ・ステーションの代表・竹中ナミさんの著書『プロップ・ステーションの挑戦』の英訳プロジェクトです。このプロジェクトは、翻訳者養成講座修了生とコーディネータで進められ、その翻訳者の1人として参加しました。音楽学を専攻すると、外国語の文献や辞典資料を多量に読まなければならないため、英語に加えて大学在学中にドイツ語・フランス語・イタリア語を勉強しました。

 去年8月からは、株式会社ユーディットの登録社員になりました。そして、視覚障害の立場でのWebや機器のアクセシビリティのチェックやモニタ、Webを用いた情報収集、英和・和英の翻訳などをしています。こうした仕事は、Windowsで動作するパソコンにスクリーンリーダ(画面情報を読み上げさせたり確認したりできるソフトウェア)を組み込んで行っています。障害のない人に比べると時間がかかったり、思わぬところで限界にぶつかったりしますが、興味を持って楽しんでこなしています。

 さらに今年6月からは、UDNJの事務局の事務担当をさせていただくことになりました。ユニバーサルデザインにはサウンドスケープの研究を通じて関心を持っていたのですが、アクセシビリティの検証に参加し、また今年3月にロサンジェルスで開催されたCSUNを体験して、UDに強い興味を持つようになりました。事務担当として、またUDNJの一会員として、UDNJの活動を盛り上げていけるように、少しでも力になれればと思っております。